一勝九敗



ファーストリテイリングの会長兼社長である柳井さんにより、2003年当時に綴られた自伝的経営書。
文庫の帯に「意欲ある、働く若い人へ!」とある通り、読むと勇気を与えられる一冊であるが、本書はまた、経営者からファーストリテイリングの社員の方に向けられた、熱いメッセージなのであろう。


一勝九敗 (新潮文庫)
一勝九敗 (新潮文庫)
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柳井 正
新潮社
売り上げランキング: 2075
おすすめ度の平均: 4.0
4 小売業をハイテク企業にという強い意志と実行力
5 平成時代の名経営者。
5 成功者の実体験録
4 失敗学
4 商品そのものよりも企業姿勢を買ってもらう。



本書は、たたき上げの経営者の本によくある、「俺は昔、こんな修羅場において、こんなにすごいリーダーシップを発揮し」的な、「愚民ども、俺を見習え!」という類の本ではない。タイトルに「一勝九敗」とある通り、ユニクロの経営を通じ、著者が犯してきた数多くの失敗談が、率直に語られている。


数多くの失敗談を読んで「なるほど」と感嘆させられるのが、過去の失敗談を単なる失敗談で終わらせず、失敗の原因が分析され、そして具体的に「こうすべきだった」と、きちんと反省がなされている点である。ユニクロが今日のカジュアルウェアの第一人者の地位を確立できたことは、本書に綴られたユニクロの数多くの「トライ・アンド・エラー」の歴史を読めば、納得が行く。


私が子供の頃、「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」と言えば、「ダサいけど、安いから買う」というイメージだった。それが、大学の卒業を控え、就職活動の頃になると、「なんだかちょっとカッコいい」に変わったことを、鮮烈に憶えている。あの当時、ユニクロの会社説明会は毎回予約いっぱいで、そもそも説明会にすら行けなかった。某社の会社説明会に向かうために乗った大阪の地下鉄で見た広告。三上寛が着るユニクロのジージャンの色、今でも憶えている。「あれ?ユニクロなのに(結構よくね)?」と。ユニクロは、10年以上の歳月をかけて、「安いけどダサい」を「安いけど、意外とカッコいい」に変えたのだ。そして、その後も弛まぬ改善活動を続け、「安いのに、品質が良く、機能性も高い」から「安いのに、品質も毎年良くなるし、機能性も高い。そして、結構カッコいい」と、常に進化し続けている。

 一直線に成功ということはほとんどありえないと思う。成功の陰には必ず失敗がある。当社のある程度の成功も、一直線に、それも短期間に成功したように思っている人が多いのだが、実態はたぶん一勝九敗程度である。十回やれば九回失敗している。この失敗に蓋をするのではなく、財産ととらえて次に生かすのである。致命的な失敗はしていない。つぶれなかったから今があるのだ。

 もうひとつ大事なことは、計画したら必ず実行するということ。実行するから次が見えてくるのではないだろうか。経営者本人が主体者として実行しない限り、商売も経営もない。頭のいいと言われる人に限って、計画や勉強ばかり熱心で、結局何も実行しない。商売や経営で本当に成功しようと思えば、失敗しても実行する。また、めげずに実行する。これ以外にない。



長者番付に名を連ねる著者の言葉であるがゆえに、大きな勇気を与えてくれる。「失敗してもいいんだ」、と。
ただし、著者は「失敗」と「致命的な失敗」を区別している。「致命的な失敗」の定義とは、おそらく、「やってみたけどうまくいかない」という状態にも関わらず、目を逸らす、誤った思い込みに陥る、根性論に走る、等の様々な理由により、取り返しの付かないレベルにまで問題を放置し続けることを指すのではないかと思う。すばやく勝算を計算し、先ずやってみる。だめだったら、すぐに対応策を検討し実行する。この繰り返しが重要なようだ。